リチウムイオン電池の誕生④

ニッケライトの発見とリチウムイオン電池誕生とのかかわり

(株)ソニーエナジーテックの前進であるSony Eveready(株)と米UCC社(UCC / BPD)との間では、SONYとUCC社との合弁が解消される1986年3月までは定期的な技術交流が図られていた。その関係からUCC/BPDではソニーから提供されたニッケライト(AgNiO2)が非水電解液中で充放電反応が可能であることを発見した。

Dr.Nagauraはニッケライトの充放電反応にはLiNiO2の生成が関与していると想定し、(株)ソニーエナジーテックにおける二次電池の開発では、正極にはLiaMO2 (M=N1,Co,Mn)を使用し、負極にはリチウム合金層間にリチウムイオンを含む化合物を使用するリチウムイオン電池の原型となる蓄電池の開発に照準を合わせた。

この照準が的中し、現在実用化されているリチウムイオン電池はほぼすべてがこの照準内にあり、正極にはLiCoO2(LCO)やLiMn2O4(LMO)やLiFePO4(LFP)等が使用され、負極にはL1-CarbonやLi4Ti5O12(LTO)を使用する様々なタイプがある。

Dr.Nagauraは1980年に「ニッケライト電池」を誕生させたが、ニッケライト電池にはこれまでに誕生した電池とは大きく異なる点が一つあった。これまでに誕生した代表的な一次電池電池は、マンガン乾電池、アルカリマンガン乾電池、酸化銀電池、過酸化銀電池、水銀電池、空気電池、フッ化黒鉛電池、二酸化マンガンリチウム電池、塩化チオニルリチウム電池、硫化鉄リチウム電池、酸化銅リチウム電池等、きわめて多く存在するが、何れも正極と負極には既に存在する材料が使用される電池である。

しかし、ニッケライト電池はその正極材料としてこれまでに自然界には存在しなかった物質/ニッケライトを合成して、それが電池の正極材料として使用されるわけである。従って、これまでとは異なり、新しい電池の誕生には無限の可能性が生まれたわけである。ただし、既に存在する材料と特別に合成する材料ではそのコストには大きな開きが生じる。ニッケライト電池は価格の高い酸化銀電池の代替として使用されるので材料コストはクリアされる。しかし、もともと材料コストのあまり高くないマンガン乾電池やアルカリマンガン乾電池の代替となる電池は特別に合成する材料では難しい。

一方、蓄電池は充放電を繰り返して使用されるので、特別に合成される材料でもコスト的には緩和され、新しい蓄電池の誕生には可能性がある。

かくして、「ニッケライト電池」の誕生によって新しい蓄電池の誕生の可能性が示唆され、リチウムイオン電池の誕生につながったのである。

(株)ソニーエナジーテックでは「ニッケライト電池」の誕生があったからこそ、リチウムイオン電池を誕生させることができたわけである。

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